環境経営格付機構 新体制発足のご挨拶

環境経営格付機構理事長 木俣 信行

 
 この度6月28日に開催された環境経営学会の常任理事会において、環境経営格付機構の新たな体制が決定致しましたので、ご報告とともに一言ご挨拶申し上げます。

 早いもので環境経営学会が設立されてから間もなく4年になります。この間、環境経営格付は学会の設立(2000年10月)以来の課題であり、学会の社会的責任として取組んで参りました。学会設立当時には、アメリカの格付機関によって一方的にわが国の国債の格付けがモザンビーク並みに引き下げられるという事態が発生しました。そこで「国民全体が活用できる格付けの日本発国際標準を樹立」すべきだという声が各界から上がって参りました。

 
こうしたことから環境経営学会では2001年に環境経営格付にかかわる基礎研究を行い、次いで2002年度よりこれを基に学会内にその実行機関として環境経営格付機構を設けて、多くの企業ならびに多数の学会員のボランティア活動と若干の国の資金を得ながら、これまでに二回の環境経営格付を実施して来ました。

 ところでEU委員会(最高決定機関)は、2001年のグリーンペーパーに引続いて2002年7月にCSRを推進するため第三者機関による格付けと順位付けの促進に着手しております。更にCSRについてはISOでの論議が始まり、わが国でも産官による取組みが活発に進められております。

 この間わが国の経済は、若干明るさを取り戻しつつあるとは言え少子高齢化が急激に進むとともに、経済的理由と考えられる働き盛りの年齢層を中心とする自殺者が1万人に達する悲惨ともいえる状況が続いております。このようにわが国の社会全体の持続可能性への長期的な見通しが不透明になっている時代にあっては、社会への影響力の大きな企業の果すべき役割は、益々大きくなりつつあると考えられます。経済同友会がCSRに係る企業評価基準・評価シートを発表し会員企業の自己評価を求めたのも、憂慮すべきわが国の事態についての産業側の自覚の表れともいえましょう。

 こうした折りに、企業が社会の持続可能性に如何に貢献しているか、社会の持続可能性と企業活動の持続的発展とを如何に矛盾なく進ているかを第三者として問い検証し様々なステークホルダーに伝えることは、持続可能な社会の構築という困難な課題を社会の様々な構成員の協力や合意を得ながら進める上での、不可欠な要件と考えられます。

 環境経営学会の環境経営(サステナブルマネジメント)格付は、企業の社会的責任に係るマルチステークホルダー・コミュニケーションの場を具体化し、企業に求められる社会の持続可能性に向けた貢献の道筋を共に明らかにすると同時に、これらの活動を通じて企業市民としての一層の自己改革を促すことを狙いとしております。即ち、本学会の環境経営格付は企業と市民社会とが手を携えて持続可能な社会を追求する触媒となることを狙いとしたものともいえましょう。

 このような格付の目的は、CSRに係る企業活動の単なる順位付けでは目的を達成することは出来ないと考えられます。そこで環境経緯営学会が研究開発してきた格付評価では、企業の様々な活動側面に関して持続可能性の観点から進むべき方向を呈示し、これを基に様々な立場のステークホルダーが持続可能な企業活動の在り方についてコミュニケーションによって相互に経験と知識・智慧を交換・蓄積して行けるようにすること、企業の夫々の活動の側面に関する対応の状況については視覚的に全体像が把握出来るように樹木の葉の色で表現し、これにより企業全体としての状況を俯瞰し理解するとともに、自らの課題を一目で把握出来るように工夫されております。この方法は環境経営学会の三田会長が提案したものであり、三田モデルと称しております。この三田モデルについては、既に海外にも紹介され多くの専門家、大学、企業家、投資家、市民に評価されて参りました。

 加えて本学会の格付にあっては、評価プロセスの透明性、公平性を期すためにエビデンスを重視しこれを格付評価委員によるヒアリングで確認すると同時に、文書や記録によるエビデンスを超えた企業の理念、哲学、戦略の確からしさをトップとの対話の場で確認する方法を採ってまいりました。こうした評価過程におけるヒアリングやトップインタビューは単に格付評価の結果を得るためだけではなく、対話を通じて相互に刺激し啓発し合い持続可能性への寄与・貢献をより確かなものと確認する中で、企業側と格付の実施者側との双方が成長しレベルアップする機会となっていることは、多くの方々の認めるところでありましょう。
こうしたことから環境経営学会ではこれまでの公式には2回、実質3回の環境経営格付評価活動を反省し、これをより的確かつ公正・公平・効率的に進めるための体制の在り方を検討して参りました。格付評価の活動を推進するには、多くの方々のご協力・献身が必要となります。またこのような大規模な活動を継続実施するには、参加され実務を担当する企業の担当者と格付評価委員の負担が過大にならないように十分に準備すること、更に活動実施に当たっては信頼性の高い体制を整える必要があることなどがこの2002、2003年の活動から明らかになりました。

 この結果、今後の格付評価活動については持続可能な企業活動および社会を研究し格付評価基準に纏め上げる役割を環境経営学会に、その成果を基に格付活動を実務的かつ効率的に推進する役割を環境経営格付機構に明確に区分し、夫々の役割の責任者を分けることが適切との判断となりました。そこで未だ分離は不十分ではありますが当面、別掲の組織図に示すような体制で取組んで行くこととなったものです。

 これまで述べて参りました通り環境経営学会の環境経営格付の活動は、格付評価を受ける企業側と格付評価の実施側との、持続可能な社会構築に向けた協働作業であります。社会的な持続可能性が危機に瀕しているわが国にあっては、今や如何に評論を超えて現実的行動で社会に貢献し責任をまっとうすることが出来るかが問われております。

 より確実で効果的な貢献のために、環境経営学会を中心とした環境経営格付活動を推進出来るよう環境経営格付機構を運営して参りたいと存じますので、皆様方のご理解とご支援を賜りたく、この場を借りてお願い申し上げる次第です。

以上

2004年7月27日

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